ICHIサントラ
ICHI

 これは…!これは意外な良作!
 北野武版座頭市にちょっとがっかりだった私ですが、これはOK!
 かなり丁寧に作られたまっとうな時代劇。
 「宿場町、対立する二組のやくざ」という定番フォーマットにちゃんと従っているのも心憎い!

 随所にこだわりをみることができて、それが一番現れているのが殺陣。
 女優さんが主演、ということでとりあえず刀振り回してくるくるしてるだけであとはやられ役のみなさんが吹っ飛んでいく、というアイドル時代劇にありがちなものだろうと思っていたら、前半ロングショットで5、6手をワンカットでみせる綾瀬はるかの殺陣があり、この映画の本気度をうかがわせる。(それ以降はスローモーションやカット割り多用ではあるけれど…。)殺陣の担当は久世浩。黒澤明作品でおなじみの久世竜の弟子ですか。こんなところも本格志向。
 そして何より殺陣が少なくドラマ重視であること。斬って斬って斬りまくる痛快時代劇を求める向きにはいまいちだろうが、これはよい方針。だいたい大映時代の座頭市だって殺陣はそんなに多くなかったわけだし。そのドラマにしても余計なセリフのわりと少ない画でみせる、というもので「これが映画だよなぁ」としみじみ思わされる。

 後期の座頭市に比べるとユーモアが足りない…それどころか盲目の主人公を女性にしたことでその悲惨さがより鮮明になっているということもあるが、これも初期座頭市のシビアさや悲しさの再現を狙ったものかと。初期なんて友を斬り、師を斬り、兄を斬り…で勝新がすごい悲しそうにみえるもの。綾瀬はるか版もシリーズが続けば開き直って明るくなっていくのだろうけど、続編はあるのかな?

 主演の綾瀬はるかは特に好きな女優さんではなかった(というか主演作みたことない、たぶん)が、今回の頑張りぶりは特筆もの。その他のキャストも適材適所。中村獅童は派手な衣装に負けない存在感で悪役を快演!殺陣も歌舞伎っぽい動きを取り入れたかなり変わった動きをみせて新鮮。この人は変にいい人を演じるより悪役の方が生き生きみえる。不安材料かと思われた窪塚洋介も精一杯いきがってるヤクザのぼんぼんを地じゃないかと思える演じきりぶり。

 もちろん北野版があって座頭市を勝新以外が演じるということのハードルを下げたことによって出来た作品であり、北野武の功績は大きいとは思うが、北野映画としても座頭市としても娯楽時代劇としても中途半端だった北野版に比べてはるかに面白いし好感が持てる。
 音楽にリサ・ジェラルドを起用してサントラだけ聞くと時代劇っぽくない音楽を違和感なくつけているのもよい。
 試みがすべてうまくいっているわけではないが観ていてうれしくなるくらい真摯に作られた時代劇。
 時代劇好きはきっと楽しめるはず。